驚異の保水力「サクラン」
サクランの発見
「化粧品において保湿成分といえば、コラーゲン、ヒアルロン酸、セラミド等がすぐに挙げられるかと思います。人の肌は常に空気に晒されていますが、乾燥には弱く、健康な肌を維持するためには適度な水分が求められます。そのため、化粧品と保湿成分は切っても切れない関係にあります。
今回は、従来の保湿成分と同等以上の保湿効果が期待できる植物由来成分をご紹介します。
2006年6月、微生物由来のバイオ資源からプラスチックを作るという研究において、スイゼンジノリ(Aphanothece sacrum:淡水生ラン藻、図1)からの抽出工程中の廃棄物から、偶然にも1つの高分子が発見されました。
この高分子は、多量の水を保持する性質を持っており、驚くことに自重の6,000倍以上もの水を保水できることが確認されました(図2)。この成分はスイゼンジノリが作り出す多糖類であり、その学名の一部であるsacrum(ラテン語で「聖なる」)の語尾をan(多糖類という意味の接尾語)に置き換えることで「サクラン」(Sacran)と命名されました。
超巨大高分子サクラン ~ヒアルロン酸の10倍の保水力~
サクランは、平均分子量約2,900万の巨大な多糖体で、純水を保持する力(保水力)がヒアルロン酸よりも約5倍高く、生理食塩水(塩水)で比較すると約10倍高いことが確認されました(図3)。肌は汗とともにミネラル等を放出していることから、サクランを肌に塗布した際は、ヒアルロン酸に比べて10倍程度の保湿効果が期待されます。
天然記念物「スイゼンジノリ」発生の地 ~水の都 熊本県~
スイゼンジノリは、 熊本県熊本市水前寺の江津湖でオランダの植物学者スリンガーによって発見された淡水生のラン藻で、清らかな水と緩やかな流れのある特別な水域でしか生息できない珍しい藻類です。その発生地一帯は国指定の天然記念物とされています。またスイゼンジノリは、江戸時代には幕府への献上品にされるなど、現在でも高級食材としても扱われています。
スイゼンジノリは単細胞生物であり、寒天質の中に細胞が集合して生息しています。この寒天質の主成分こそがサクランであり、スイゼンジノリを乾燥から防ぐ働きや外敵から細胞を守る働きがあると考えられています。
このスイゼンジノリですが、実は近年、地下水の富栄養化及び湧水量の減少等により、野生のスイゼンジノリは減少、一説には絶滅したとも言われています。現在は、市や企業、ボランティアなどによる環境保全活動が活発に行われ、野生のスイゼンジノリの復活が期待されています。
尚、食用や化粧品用等に用いられるスイゼンジノリは、現在、熊本県益城町や福岡県朝倉市にて安定的に養殖されています。
これらの養殖地は、2016年4月の熊本地震、2017年7月の九州北部豪雨により被災しましたが、生産者の懸命な復旧活動のおかげで、現在も盛んに養殖が行われています。
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